基本版面の設定
本稿ではInDesign基本版面の設計、行組版の設定を解説する。CS4は最新版でないが、細かい設定は行わないので、最新版でも問題なく適用せられるであろう。
InDesignの操作方法に関しては附属のマニュアルなどを参照してほしい。本稿はInDesignをどう操作するかではなく、どのような設定(組版方針)にすべきかについて論ずる。
新規ドキュメントを作成しようとすると、まずは判型を選ぶ作業がある。ここではA5判、新書判、文庫判のいずれかにする。ただし、InDesignでは文庫判がデフォルト設定では用意されていない。また、InDesignのデフォルトで用意された新書判のサイズは、印刷所によって違う場合もあるので注意する。
文庫判、一般的な新書判を選ぶ場合はテキストボックスの値を直接入力して、適切な値に変更する。
方向は当然「縦置き」、綴じ方向は「右」とする。
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レイアウトグリッドか? マージン・段組か?
ドキュメント作成方法はレイアウトグリッドを選ぶ。レイアウトグリッドは原稿用紙を意識した作りであるし、行送り・字送りが容易に把握せられる利点がある。私見であるが、マージン・段組は欧文組版のときに用いるべきではないだろうか。
版面の設計
文字サイズ、行間、字詰、天地、ノド、小口の余白などを適切な値に設定する。設定例を次に掲げる。
判型 | 文字サイズ/行送り | 段数/段間 | 字詰/行数 | 余白(天/地/ノド/小口)[mm] |
---|---|---|---|---|
文庫判 | 12Q/20H | 1段 | 41字/17行 | 13/12/13/9 |
12.5Q/20H | 1段 | 40字/17行 | 13/10/12.875/9 | |
13Q/21H | 1段 | 38字/16行 | 13/11.5/10.25/9 | |
新書判(103×173) | 13Q/21H | 2段/6[mm] | 22字/16行 | 12/12/12/9 |
12Q/20H | 2段/6[mm] | 24字/17行 | 12/11/11/9 | |
12Q/20H | 1段 | 48字/17行 | 15/14/11/9 | |
13Q/21H | 1段 | 45字/16行 | 13/13.75/12/9 | |
A5判 | 14Q/22H | 1段 | 48字/22行 | 21/21/15/14 |
13Q/24H | 1段 | 53字/22行 | 18.875/18.875/15.75/14 | |
13Q/21H | 2段/7[mm] | 26字/23行 | 17/17/15.25/14 | |
14Q/22H | 2段/7[mm] | 24字/22行 | 17.5/17.5/15/14 |
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行組版の方針
行組版の設定を行う前に、行組版の方針を決める。小説で一般的であろうと思われる行組版の方針は次のとおりである。
- 段落一字下げは原稿の段階で行い、段落冒頭の括弧類の組方は「段落行頭:半角アキ/折返行頭:ベタ」とする。
- 禁則による調整をなるべく避け、字詰の長短に関わらず弱い禁則とする。
- ぶら下がりは許可する。
- 調整による約物のアキは詰めても四分までとするが、文章の区切りを示す句読点の直後のアキは調整に用いない。
文字組みアキ量の設定
InDesignの行組版の核たる「文字組みアキ量」では、調整によって約物のアキがどこまで詰められるか、また、調整の優先順位などを設定する。
一つだけ覚えていてほしいこととして、文字組みアキ量のデフォルト設定による組版品質は決して高くはないということである。InDesignのデフォルト設定は十以上用意せられているが、いずれの設定も調整によって約物のアキがベタまで詰められることを許容しているのである。これでは約物のアキがベタまで詰められるから、可読性に影響が生ずる。すなわち、*自前で最適な設定を作る必要*がある。
小説に最適な文字組みアキ量の設定
それでは、既存の設定である「行末約物半角」を基本にして、小説において最適な設定を作ろう。「行末約物半角」を呼び出し、新規ボタンをクリックすると適当な名前を求められる。ここでは「小説本文」とでもしよう。
単位を「分」として、スクリーンショットのように設定する。この設定では、行中および連続する約物の句読点類のアキを二分固定にしていることであり、つまり、句読点の直後のアキは調整により詰められることはない。句読点は文章の区切りを示すものであり、文字が主体の小説ではその句読点の重要さは大きいため、調整を避ける方針とした。
調整の自由度が下がるのではないかという不安もあろうが、そのためにぶら下がりの許可、弱い禁則にすることで調整自体を廻避する。仮に調整が発生したとしても、小説の字詰は長い傾向にあるから、行の文字における字間の調整量は少なくなるので特に問題はない。設定が終わったら、保存を行う。
段落スタイルの設定
文字組アキ量の設定が終わったら、段落スタイルを設定する。段落スタイルの設定では、先程作成した「文字組みアキ量」の設定や禁則処理・ぶら下がり処理の設定を行うことで、調整をなるべく避ける組版を実現する。ここでは、段落スタイル「本文」を作成しよう。
まずは「基本文字形式」において、文字サイズと行送りを、先程レイアウトグリッドの設定に行った基本版面の文字サイズと行送りと同一の値に設定する。図のスクリーンショットでは、フォントがデフォルトの小塚明朝体ではなくリュウミンとなっているが、フォントに関しては自身の所有するフォントから最適なものを選ぶ。
次に「日本語文字組版」において、図のように設定する。禁則処理を「弱い禁則」に、禁則調整方式を「調整量を優先」に、ぶら下がりを「標準」に、そして、文字組みを先程作成した段落スタイル「小説本文」に設定する。以上のような設定を行うことで、調整を能う限り避ける行組版ができあがる。
各設定の効果を述べよう。禁則処理を「弱い禁則」にすることで、行頭禁則は必要最低限である終り(閉じ)括弧類や区切り約物、繰り返し符号程度となる。禁則調整方式は追い出し処理でもない追い込み処理でもない「調整量優先処理」にすることにより、追い出しと追い込みそれぞれにおいてもっとも調整量が少なくなるような処理が調整が必要な行で選択せられる。ぶら下がりを強制としないのは、そうとした場合ぶら下がりが必要ないのに、行末に来た句読点を前続の文字の字間を割ってでも強制的にぶら下がりにする処理が行われるからである。
以上で今までの項目で述べてきた小説における最適な行組版がInDesignで実現せられるだろう(テキストに作成した段落スタイル「本文」を適用し忘れないように!)。さらに品質を追求したいのであれば、調整の優先順位といった細かい箇所まで設定すべきであろうが、これくらいの設定でも下手な商業出版よりは上等な組版が実現される。
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