行の組方

行の組方(行組版)では、約物の組方や禁則処理とその調整、ルビの組方といった行における文字・記号の配置を取り扱う。

行組版の基本は字間をベタとして、字詰を整数倍にする。その上で行長を揃えることである。ただし、段落最終行の空白はそのまま残す。字間を詰める組方もあるが可読性を損なうので避ける(大多数の和文書体はベタ組を前提として設計)。

字詰を整数倍にし仮想ボディをベタで素直に並べていけば字詰は揃うはずだが、先述した禁則処理などや約物が連続すると半端が生じてしまう。このような場合、字間を空ける、詰めるといった調整をして行長を揃える必要がある。欧文組版では行長が多少不揃いでも許容される(ラグ組と言う)が、日本語組版では許されない。

基本的に段落行頭(始め括弧類が来た時は後述)は一字下げとする。原稿の段階で全角スペースを挿入して一字下げとする方法と、組版の段階でDTPソフトウェアの設定によって自動的に一字下げする方法の二つある。行頭一字下げを行わない組版も存在するには存在するが、小説ではされることはないであろう。前行が会話文や引用文で「と、の、が、も」などで受ける場合は一字下げを行わないこともある。このときに一字下げを行うか否かは全体でそれなりに統一されていればよい。

約物の組方

始め括弧類、終り括弧類、句点類、読点類、中点類の本来の仮想ボディは半角であるが、行組版においては前か後に半角アキを入れ、原則として全角として取り扱う。区切り約物、ハイフン類、分離禁止文字の仮想ボディは全角とする。

約物の一般的な組方

句点類・読点類

句点類・読点類は直後に二分アキを挿入し、原則として全角ドリとする。行末に来る場合は全角ドリか半角ドリとする。中間の値は取らない。ぶら下げ(後述)にする場合もある。

約物の一般的な組方
約物の一般的な組方

始め括弧類

始め括弧類は直前に二分アキを入れ全角ドリとする。行頭に来る場合は後述する。

終り括弧類

終り括弧類は直後に二分アキを入れ、全角ドリとする。行末に来る場合は全角ドリか半角ドリとする。中間の値は取らない。パーレンをベタとする場合もある。

中点類

中点類は前後に四分アキを挿入し、原則として全角ドリとする。ただし、中黒を小数点として使用する場合、アキはベタとして半角ドリにする。

区切り約物

区切り約物は直後に全角アキを挿入する。区切り約物は句読点と同じ使われ方をするため、全角アキを挿入するのである。ただし、文脈上全角アキを挿入すると不自然になる場合はベタとする。行末に来る場合、アキはベタとする。

分離禁止文字

分離禁止文字は偶数回繰り返すことを原則とし、それぞれの分離禁止文字の間のアキはベタとする。二倍全角ダーシや二倍三点リーダーを二倍約物と呼ぶこともある。

約物が行末に来る場合、必ず半角ドリとする組方もある。整然とした版面を狙っているのだろうが、全角ドリも許容した方がよい。例のようにわざわざ字間を空けたりしてまで行末の約物を半角ドリにしてしまうと、字詰が短い場合アキが目立ち、整然どころかがたついた印象を持たれてしまう。字詰が長い場合はどちらでもよいだろう。

行末における約物の組方
行末における約物の組方

行頭の括弧類の組方

行頭における始め括弧類の組方は一般には三種類ある。なお、終り括弧類が行頭に配置されることはない(行頭禁則を参照)。

行頭は強制改行によって段落が新しく始まった所である段落行頭と、指定した字詰で組んだ結果文章が自動改行(折り返した)した所である折り返し行頭との二つに分けて考えられる。段落行頭に来た始め括弧類に対しては大きめのアキを挿入し、折返行頭に来たものに対しては小さめのアキを挿入するか或いは挿入しないことで、段落行頭と折返行頭の区別を附けられる様にするのが基本である。

組方としては次のような組合せになる。ほとんどの小説では「段落行頭:半角アキ/折返行頭:ベタ」の組合せを採用している。

行頭の括弧類の組方
行頭の括弧類の組方

一部の同人誌では設定が悪いためか常にベタの組方をして居るものを見かけるが、これは誤った組方である。アキが全く挿入されないので、段落行と折返行頭との区別が附かない。最近は商業出版ですらこの様な組方を見かける。

誤った行頭の括弧類の組方
誤った行頭の括弧類の組方

約物連続時の組方

行中で約物が単独の場合、基本的には全角ドリにすればよい。約物が連続した時の組み方が問題となる。原則どおりに組むと体裁が悪いので適当にアキを詰めるのであるが、この処理が先述した半端の原因でもある。

約物が連続した結果、アキが全角となる場合、そのアキは半角まで詰めることを原則とする。

約物連続時の組方
約物連続時の組方

連続する括弧類の組方

始め括弧類が連続する場合、最初の始め括弧類の直前に二分アキを入れて、残りはベタとする。

終り括弧類の場合、最後の終り括弧類の直後に二分アキを挿入し、それ以外はベタにする。

始め括弧類の後に終り括弧類が続く場合、間のアキを二分とし全角二分ドリにする。

連続する句読点類と括弧類の組方

句読点類の直後に終り括弧類が来る場合、句読点類はアキは挿入せず全角二分ドリとする。直後に始め括弧類が来る場合、間に二分アキを挿入し全角二分ドリとする。終り括弧類の直後に句読点類が続く場合、間はベタとして全角二分ドリにする。

連続する括弧類と中黒の組方

中黒と括弧類(終り、始め問わず)が連続する場合、間のアキを四分まで詰める。

連続する区切り約物と括弧類の組方

区切り約物の直後に終り括弧類が続く場合、区切り約物直後の全角アキはベタまで詰める。始め括弧類が続く場合は、間のアキは全角アキとする。

連続する区切り約物と分離禁止文字の組方

区切り約物の直後にダーシやリーダーが続く場合、アキはベタとする。四分アキとする組方もある。

連続する分離禁止文字と括弧類の組方

区切り約物の直後に終り括弧類が続く場合、それらの間のアキはベタとする。始め括弧類であれば、始め括弧類の直前に二分アキを挿入する。

異なる分離禁止文字が連続する時の組方

異なる分離禁止文字が連続する時はアキはベタとする。

禁  則

特定の約物が行末または行頭に来てはいけないこと、二行にまたがってはいけないことをを禁則と言い、そのルールに則って、約物を配置・調整することを禁則処理と言う。禁則処理には行末禁則・行頭禁則・分離禁止・分割禁止の四つある。

禁則に抵触した約物は、当該する約物を移動させることによって、禁則を廻避する。

行末禁則

行末禁則とはある特定の約物・文字を行末に配置してはいけないことであり、対象は始め括弧類である。

行頭禁則

先の行末禁則と同様に、ある特定の約物・文字を行頭に配置を禁ずることである。行末禁則と比べ対象が多く、また例外が数多くある。行頭禁則の対象となるものは、終り括弧類、句点類、読点類、中点類、区切り約物、小書きの拗促音(ぁぃぅぇぉっゃゅょなど)、音引き(ー)、繰り返し符号(々ゝヽなど)である。ただし、拗促音、音引き、繰り返し符号、中点類の内の中黒に関しては行頭に来ることを許容する場合もある。

必ず禁則である終り括弧類、読点類、句点類、区切り約物はよいとして、中黒、拗促音、音引き、繰り返し符号はどのような時に許容するかという問題がある。これについては字詰を基準とし、大体30字を基準とする。字詰が短いと行頭禁則による調整が頻繁に発生し、字間が割られたり詰められることが多くなり、散漫な組方になってしまう恐れがある。

字詰が短い時は許容とし、字詰が長い時はどちらの方針を採用しても差し支えないだろう。

分割禁止・分離禁止

分割禁止はある文字列・記号列を行で分かれないようにすることで、分離禁止は字間を空けないことである。

分離禁止の対象となるのは分離禁止文字、連数字(数値の連続)、連数字の前後に付く前置省略記号(¥$など)・後置省略記号(%℃など)・合成和字単位、欧文単語である。なお、これらは分割禁止でもある。また、特殊な例としてグループルビの分割禁止があるが、これについては後述する。

字詰が短い場合、調整によって字間が多く割られるなど散漫な行組版になってしまうので、欧文単語と三点リーダーの「分割を許容」することもある。ただし、欧文単語を分割する際はハイフネーション処理(分綴)と言って、音節の部分にハイフンを入れて次行に送る。

また、連数字分割の例外として4桁の西暦年号では2桁での分割を許容することもある。

禁則処理と調整

行頭禁則・行末禁則・分離禁止に抵触しないように調整――禁則処理を行う。また、約物が連続したことによって、行末に半端が生じる場合もある。これを回避するために字間を割ったり詰めたりするなどして、半端を〝隠す〟必要がある。これらの処理はソフトウェアが自動的に行うものであるが、使用しているソフトの初期設定やカスタマイズできる範囲を事前に確認しておく。

調整の方針

調整の方針としては、「追い込み方式」と「追い出し方式」がある。追い込み方式は約物の前後・和欧文間などのアキを詰めて、字詰を揃える処理である。一方、追い出し方式は字間を空けて(割って)、字詰を揃える処理である。

追い出し処理と追い込み処理
追い出し処理と追い込み処理

追い込み方式では、約物の前後のアキや和欧文間のアキを詰めていくが、可読性の観点から詰めても「四分」が限度である。

さて、約物があればむやみやたらに詰めるよりは、約物の意味を考慮して詰める順序を決定した方がよい。句点は読点より区切りとしての意味が強いから、句点のアキより読点のものを先に詰める。また、鍵括弧は強調に使われることが多く、パーレンは補足に使われることが多いから、パーレンを優先して詰める。ただし、調整の優先順位をどこまで設定できるかはソフトウェアに依存する。

なお、約物前後のアキを調整に使う場合は詰める調整処理だけであって、二分以上空けることはしない。また、行頭・折り返しの字下げや、行頭における始め括弧類の前のアキは調整には使用しない。

追い込み方式で調整ができないときは、約物の前後のアキなどの詰めを行わずに、字間を割って追い出すこととなる。

現在のDTPでは、漢字や仮名の字間を詰めてまで追い込みを実現できるが、この方法は本文組みでは極力避けたい。

追い出し方式は約物の前後の詰めを最初から許さずに、字間を割って調整を行う。

ぶら下げ

句読点を行末の次の文字に配置することをぶら下げと呼ぶ。ぶら下げ組、ぶら下がりとも称せられる。これによって、追い込み・追い出しの手間を廻避できる。

ぶら下げは縦組で行うもので、句読点の「。」と「、」だけが対象である。同じ性格の約物である「!」「?」をぶら下げないのは全角であるため目立ちすぎるからである。一部のワープロソフトでは区切り約物や括弧類や音引きを平然とぶら下げるが、句読点以外は絶対にぶら下げない

多段組の文章においてぶら下げ組を採用することには問題ないが、段間が狭い場合や段間に罫線が入っているレイアウトの場合であると適切ではないので避ける。

大半の小説ではぶら下げを採用して居るので、同人小説でも採用するのが無難であろう。

ルビの組方

ルビは読みが難しい単語・語句の読み方を示すといった目的で使われる。また、当て字の読み方を示す場合もある。小説の内容によっては、非常に見かけるものであろう。

ルビが振られる文字を親文字という。ルビの組方には次のような原則がある。

第一に語単位でつけることである。例として、深愛にルビを振る場合、深愛(あい)と振るのではなく、深愛(しんあい)と振ることが専らである。これはルビが単語・語句の読みを示すためにあるからと思われる。

ルビの文字サイズは親文字の二分の一を原則とする。ただし、見出しなど親文字の文字サイズが大きい場合(大体14級以上)でルビをつける時、ルビの文字サイズは小さくする。ルビの文字サイズはどんなに大きくなっても10級(7ポ)が上限であろう。

また、捨て仮名は使用しないことが多い。ルビの文字サイズは小さいので捨て仮名が使用されても却って読みにくいということに拠る。もともと、ルビで捨て仮名が使用されなかったのは、活字組版が一般であった時代ではルビ用活字に捨て仮名がなかったためらしい[外部文献:小書きの仮名]。現在のDTPではルビ用フォントでも捨て仮名が用意されて居ないということはないので、使用すべきでない理由は昔より薄れて居るのは確かである。

親文字がゴシック体でもルビは常に明朝体を使用し、かつウェイトの小さいものにする。ウェイトを小さいものを使用するのは、文字サイズが小さい程ウェイトが小さいものを選ぶという原則からである。明朝体を使用するのは先述の捨て仮名と同様の理由であると思われる。

ルビは行頭・行末からはみ出してはいけない。図の様に親文字を揃えるか、ルビを揃えるかの二通りの方法がある。どちらにするか事前に決めておくことが望ましいが、あくまで原理原則なので適宜使い分けるのが良い。

ルビ
行頭と行末とにおけるルビ

ルビの字数が多い場合、対象文字からはみ出す場合がある。ルビ1字までは仮名にかかってもよいが、漢字にはかからないようにする(誤読せられるのを防ぐため)。ただし、一つの熟語内であれば、ルビ1字が漢字にかかってもよい。対象外の漢字にかかったり、ひらがなに1字以上かかる場合は対象の語の字間を割り、前後も適当に空けて調整する。

句読点・中黒・終り括弧類にはルビ1字まではかかってもよいが、始め括弧類、区切り約物にはなるべくかからないようにする。

モノルビとグループルビ

親文字一つ一つに対応するルビを振る方式をモノルビと言い、複数の親文字にまとめて平均してルビを振ることをグループルビと言う。

通常はモノルビで処理し、当て字や熟字訓にはグループルビで処理を行う。グループルビで親文字・ルビがともに2字以上でどちらかが長い場合、長いほうの字間をベタとして、短いほうの字間をJIS1-2-1ルール(X:親文字列の先頭からルビ文字列の先頭までのアキ量、Y:ルビ文字間のアキ量、Z:ルビ文字列の最後尾から親文字列の最後尾までのアキ量として、X:Y:Z=1:2:1とする。これは親文字がルビより長いときの処理である。また、行頭・行末のときはこの限りではない)に従って処理する。

JIS 1-2-1ルール
JIS 1-2-1ルール

肩付きと中付き

縦組においてモノルビは肩付きと中付きに分けられる。

肩付きとは振り仮名が一字の時、親文字の上半分にルビをつける方式である。それに対し中付きは親文字の中央にルビをつけるものである。

モノルビをつける時はどちらかの方式に統一して処理して混在はさせない。

ルビ
ルビ

モノルビ・グループルビの分離と分割

モノルビは分離・分割ともに許容する。

グループルビは分離は許容するが分割禁止である。それが行で分かれるようなことがあれば、追い出すなどをして分割を防ぐ。ただ、あまりにも追い出される量が増え字間が空き過ぎて、体裁が悪い組版になる時はやむを得ず分割を許容することもある。また、親文字やかルビのどちらが英字の場合、英字は分離禁止となる。

熟語ルビ

モノルビとグループルビの特徴を組み合わせたルビである。例えば、ある二字熟語の場合、前の一字にルビが三字、後の方に一字であれば、この言葉を一纏まりと考えて、ルビを食い込ませて処理をする。分割は許容し行で分かれるようなことがあれば、モノルビのように処理を行う。

圏点の組方

圏点あるいは傍点とは特定の文字列を強調する記号である。

親文字1文字に一つにつけ、文字サイズは親文字の二分の一が原則である。また、中付きで組む。

縦組では文字の右にゴマを、横組では文字の上に黒丸をつける。時折、縦組であるに関わらず、圏点に黒丸をつけているものを見かけるので、混同しないように注意する。

ウィドウ

ウィドウとは段落最後の行が行長の三分の一未満になること、あるいは段落最後の一行が段の始めかページ始めかに孤立してしまうことである。もともとは欧文組版の概念であり、定義が色々とあって書籍によって説明が大分食い違いっていることもある。

ウィドウを気にする人は結構居る様であるが、日本語組版であれば、そこまで神経質になる必要はないであろう。ただ、ページ始めや段の始めに「る。」「ます。」が孤立した上で本文が終るのは流石に体裁が悪いので、直後の文章の約物を調整したり字間を割ったりして、ウィドウを廻避する。

ウィドウ
ウィドウの一例