禁則

特定の約物が行末または行頭に来てはいけないこと、或いは二行にまたがってはいけないことを禁則と言い、そのルールに則って約物を配置・調整することを禁則処理と呼ぶ。

禁則処理には行末禁則・行頭禁則・分離禁止・分割禁止の四種類あり、禁則に抵触した約物は、当該する約物を移動させることによって、禁則を廻避する。

行末禁則

特定の約物・文字を行末に配置してはならないことを行末禁則と呼び、対象は始め括弧類である。

行頭禁則

先の行末禁則と同様にある特定の約物・文字を行頭に配置を禁ずることである。行末禁則と比べ対象が多く、また例外が数多くある。行頭禁則の対象となるものは、終り括弧類、句点類、読点類、中点類、区切り約物、小書きの拗促音(ぁぃぅぇぉっゃゅょなど)、音引き(ー)、繰り返し符号(々ゝヽなど)である。ただし、拗促音、音引き、繰り返し符号、中点類の内の中黒に関しては行頭に来ることを許容する場合もある。

必ず禁則である終り括弧類、読点類、句点類、区切り約物はよいとして、中黒、拗促音、音引き、繰り返し符号はどのような時に許容するかという問題がある。これについては字詰を基準とし大体30字を基準とする。字詰が短いと行頭禁則による調整が頻繁に発生し、字間が割られたり詰められることが多くなり、散漫な組方になってしまう恐れがあるからだ。字詰が短い時は許容とし、字詰が長い時はどちらの方針を採用しても差し支えないだろう。

分割禁止と分離禁止

分割禁止はある文字列・記号列を行で分かれないようにすることで、分離禁止は字間を空けないことである。

分離禁止の対象となるのは分離禁止文字、連数字(数値の連続)、連数字の前後に付く前置省略記号(¥$など)・後置省略記号(%℃など)・合成和字単位、欧文単語である。なお、これらは分割禁止でもある。また、特殊な例としてグループルビの分割禁止がある(ルビの組方を参照)。

字詰が短い場合、調整によって字間が多く割られるなど散漫な行組版になってしまうので、欧文単語と三点リーダーの「分割を許容」することもある。ただし、欧文単語を分割する際はハイフネーション処理(分綴)と言って、音節の部分にハイフンを入れて次行に送る。

また、連数字分割の例外として4桁の西暦年号では2桁での分割を許容することもある。

禁則処理と調整

行頭禁則・行末禁則・分離禁止に抵触しないように調整――禁則処理をする。また、約物が連続したことによって、行末に半端が生じる場合もある。これを回避するために字間を割ったり詰めたりするなどして、半端を〝隠す〟必要がある。これらの処理はソフトウェアが自動的にするものであるが、使用しているソフトの初期設定やカスタマイズできる範囲を事前に確認しておく。

調整の方針

調整の方針としては、「追い込み方式」と「追い出し方式」がある。追い込み方式は約物の前後・和欧文間などのアキを詰めて、字詰を揃える処理である。一方、追い出し方式は字間を空けて(割って)、字詰を揃える処理である。

追い出し処理と追い込み処理
追い出し処理と追い込み処理

追い込み方式では、約物の前後のアキや和欧文間のアキを詰めていくが、可読性の観点から詰めても「四分」が限度である。

さて、約物があればむやみやたらに詰めるよりは、約物の意味を考慮して詰める順序を決定した方がよい。句点は読点より区切りとしての意味が強いから、句点のアキより読点のものを先に詰める。また、鍵括弧は強調に使われることが多く、パーレンは補足に使われることが多いから、パーレンを優先して詰める。ただし、調整の優先順位をどこまで設定できるかはソフトウェアに依存する。

なお、約物前後のアキを調整に使う場合は詰める調整処理だけであって、二分以上空けることはしない。また、行頭・折り返しの字下げや、行頭における始め括弧類の前のアキは調整には使用しない。

追い込み方式で調整ができないときは、約物の前後のアキなどの詰めを行わずに、字間を割って追い出すこととなる。

現在のDTPでは、漢字や仮名の字間を詰めてまで追い込みを実現できるが、この方法は本文組みでは極力避けたい。

追い出し方式は約物の前後の詰めを最初から許さずに、字間を割って調整を行う。

ぶら下げ

句読点を行末の次の文字に配置することをぶら下げと呼ぶ。ぶら下げ組、ぶら下がりとも称せられる。これによって追い込み・追い出しの手間を廻避できる。

ぶら下げは縦組で行うもので、句読点の「。」と「、」だけが対象である。同じ性格の約物である「!」「?」をぶら下げないのは全角であるため目立ちすぎるからである。一部のワープロソフトでは区切り約物や括弧類や音引きを平然とぶら下げるが、句読点以外は絶対にぶら下げない

多段組の文章においてぶら下げ組を採用することには問題ないが、段間が狭い場合や段間に罫線が入っているレイアウトの場合であると適切ではないので避ける。

大半の小説書籍ではぶら下げを採用して居るので、小説系同人誌でも採用するのが無難であろう。